本記事にはプロモーションが含まれている場合があります
運送業の残業代は泣寝入り?残業を証明・請求する方法は?
運送業と言っても長距離や短距離などいろいろありますが、基本的に一日の大半を運転して過ごしている業種であるため、残業という概念についてあいまいになってしまいがちです。
残業代を支払ってもらえないケースも多く、実際にねこの手ユニオンにも、以下のような相談が寄せられています。
「ほぼ毎日時間外労働をしているが、残業代をもらったことがない」
「歩合制だからそもそも残業代は無いと言われた」
「時間外手当や固定残業代で支払っているからそれ以上は発生しないと言われた」
「タイムカード等が無く残業代を請求したいが証拠がない」
このように、運送業の方の中には、残業代を支払ってもらえずに悩んでいる方が非常に多いです。
そこで、本記事では、運送業の残業代について、請求を行う際に覚えておきたいポイントなどについて解説していきます。
運送業で働いており、残業代について悩んでいる方はこの記事を参考にしてみてください。
運送業の法定労働時間は?
労働基準法において、一般企業の労働時間の上限は、「1週間40時間、1日8時間」と定められており、この時間のことを法定労働時間と言います。
法定労働時間を超えて従業員が労働する場合には、労働者と経営者が「36協定」を締結しなければなりません。
また、36協定を締結している場合の時間外労働にも上限はあり、「月45時間、年360時間」が上限とされています。
とはいえ、この時間外労働時間の上限も、繁忙期などを理由に超えて働くことは可能です。
ただし、特別条項付き36協定を締結する必要があり、仮に特別条項付き36協定を締結したとしても、以下の条件に違反すると罰則の対象になります。
- 残業時間が月100時間未満、年720時間以内であること
- 月45時間を超える残業は年に6回までであること
- 2〜6ヶ月のいずれの平均残業時間が80時間以内であること
このように、一般企業は残業時間が明確に定められており、違反すると経営者が「30万円以下の罰金または半年以下の懲役」に処されます。
一方で、運送業のトラック運転手などは、この労働基準法による時間外労働の上限が猶予期間によって適用されておらず決まっていません。
そのため、経営者の中にはいくらでも残業させても良いと考える方がいますが、厚生労働省によって「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が事細かく定められています。
特に、下記の項目の内容には厳重なので、よく理解するようにしておきましょう。
- 労働時間
- 1日の拘束時間の上限
- 1日の休息時間
- 1日の運転時間の上限
- 連続運転時間
では、それぞれ詳しく解説していきます。
労働時間
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によると、トラック運転手などの自動車運転業務の拘束時間(休憩時間や手持ち時間を含む)は、原則として1ヶ月「293時間」が上限です。
ただし、労働者と経営者が36協定を締結しているなら、1年間で6ヶ月まで、拘束時間を360時間まで延長することができます。
なお、36協定を締結していたとしても、1年間の拘束時間の合計が3,516時間(293時間×12ヶ月)を超えて働くことはできません。
1日の拘束時間の上限
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準では、1日の拘束時間の上限も定められています。具体的には、原則として1日「13時間」が上限です。
ただし、13時間を超えても働く必要がある場合には、>拘束時間の間に休憩時間を「8時間以上」確保することで、最大「16時間」まで延長できます。
とはいえ、拘束時間が15時間を超える労働は、1週間につき2回の業務までという決まりもあるので覚えておきましょう。
なお、運転手が1台のトラックに2人以上乗って業務を行っている場合には、1日の拘束時間を20時間に延長することができます。
1日の休息時間
トラック運転手などの自動車運転の業務における休息時間とは、終業から始業までの間の時間を指し、ドライバーが自宅などで休める時間のことです。
休息時間は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」により「8時間」と定められており、2回に分けて8時間を取ることも認められていません。
ただし、どうしても継続して8時間以上の休息時間を取ることが難しい場合は、「一定期間内における全勤務回数の2分の1」を限度に、休息時間を拘束時間の間や後に取ることが可能です。
その際は、分割された休息時間が1日において「1回あたり継続4時間以上、合計で10時間以上」になるように休息時間を取る必要があります。
なお、運転手が1台のトラックに2人以上乗って業務を行っている場合には、休息時間を4時間に短縮することが可能です。
また、トラックがフェリーに乗っている時間は休息時間として扱われるため、通常の休息時間から差し引けます。
1日の運転時間の上限
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によって、1日の最大運転時間は、2日平均で9時間以内と定められています。
例えば、前日に10時間運転して、当日8時間運転、翌日10時間運転した場合は、2日平均が9時間であるため、違法ではありません。
ただし、1週間に運転して良い時間は、2週間ごとの平均で44時間が上限です。
連続運転時間
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によって、ドライバーを連続して運転させて良い時間は4時間と定められています。
運転開始から4時間以内、または4時間が経過した直後に30分以上の休憩の取得が必要です。
また、休憩時間を分割する場合は、1回の休憩につき10分以上の休憩を取る必要があり、合計で30分以上にしなければなりません。
運送業の残業代の考え方や計算方法は?
トラック運転手の残業代を計算する方法は、以下の3つの給与形態により異なります。
- 固定給のみのケース
- 歩合制が採用されているケース
- 固定残業代制が採用されているケース
上記3つの給与形態ごとに、残業代について解説していくので、ご自身がどちらに該当しているのかを確認してから、解説する内容を参考にしてください。
固定給のみのケースの計算方法
給料が固定給のみのケースでは、以下の方法で残業代を計算します。
基本給+各種手当(1ヶ月)÷所定労働時間(1ヶ月)=基礎賃金
基礎賃金×割増賃金率×残業時間数(1ヶ月)=残業代
上記の計算式で計算することができますが、それぞれの項目がわからない方もいるでしょう。
各項目について以下の表で解説しているので、内容を確認するようにしてください。
名称 | 内容 |
---|---|
基礎賃金基 | 基本給に各種手当(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・ 臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く)を加えた、 1時間あたりの賃金額のこと |
所定労働時間 | 労働者が働くこととなっている時間のこと。 例えば、始業時間が9時、就業時間18時、休憩時間が1時間の場合は、 「8時間」が所定労働時間になる |
割増賃金率 | 会社が労働者に対して、時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた際に、 通常の賃金よりも割り増した賃金を支払う必要があり、その際の割増率のこと。 法定時間外労働は「1.25倍」、法定休日労働は「1.35倍」、深夜労働は「0.25倍」 |
残業時間 | 法定時間外や法定休日に働いた時間 |
では、実際に以下の2つのパターンで残業代を計算してみましょう。
- パターン1
【前提条件】
- 法定時間外残業時間:60時間(1ヶ月)
- 所定労働時間:160時間(1ヶ月)
- 月給(基本給+各種手当):28万円
- 割増賃金率(法定時間外残業時):1.25倍
※1円以下四捨五入
28万円(月給)÷160時間(所定労働時間)=1,750円(基礎賃金)
1,750円(基礎賃金)×1.25(割増賃金率)×60時間(法定時間外残業時)=13万1,250円(残業代)
上記の場合は、1ヶ月に13万1,250円の残業代が発生しています。
- パターン2
【前提条件】
- 法定時間外残業時間:50時間(1ヶ月)
- 法定休日労働時間:8時間(1ヶ月)
- 所定労働時間:160時間(1ヶ月)
- 月給(基本給+各種手当):28万円
- 割増賃金率:1.25倍(法定時間外残業時)、1.35倍(法定休日労働)
※1円以下四捨五入
28万円(月給)÷160時間(所定労働時間)=1,750円(基礎賃金)
1,750円(基礎賃金)×1.25(割増賃金率)×50時間=10万9,375円(法定時間外残業の残業代)
1,750円(基礎賃金)×1.35(割増賃金率)×8時間=1万8,900円(法定休日労働時間の残業代)
10万9,375円(法定時間外残業の残業代)+1万8,900円(法定休日労働時間の残業代)=12万8,275円(残業代)
上記の場合は、1ヶ月に12万8,275円の残業代が発生します。
歩合制が採用されているケースの計算方法
歩合給が採用されている場合の計算式は以下になります。
固定給部分:基本給+各種手当(1ヶ月)÷所定労働時間(1ヶ月)=基礎賃金の固定給部分
基礎賃金の固定給部分×固定給の割増賃金率×残業時間数(1ヶ月)=固定給部分の残業代
歩合部分:歩合給額÷総労働時間(1ヶ月)=基礎賃金の歩合部分
基礎賃金の歩合部分×歩合給の割増賃金率×残業時間数(1ヶ月)=歩合部分の残業代
上記の計算式で使用している各項目については、以下の表で確認できます。
名称 | 内容 |
---|---|
基礎賃金 | 基本給に各種手当(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・ 臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く)を加えた、 1時間あたりの賃金額のこと |
所定労働時間残業時間 | 労働者が働くこととなっている時間のこと。 例えば、始業時間が9時、就業時間18時、休憩時間が1時間の場合は、「8時間」が所定労働時間になる |
総労働時間 | 働いたすべての時間 |
固定給の割増賃金率 | 会社が労働者に対して、時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた際に、通常の賃金よりも割り増した賃金を支払う必要があり、その際の割増率のこと。 法定時間外労働は「1.25倍」、法定休日労働は「1.35倍」、深夜労働は「0.25倍」 |
歩合給の割増賃金率 | 会社が労働者に対して、時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた際に、通常の賃金よりも割り増した賃金を支払う必要があり、その際の割増率のこと。 歩合の割増率は法定時間外労働が「0.25倍」、法定休日労働は「0.35倍」、深夜労働は「0.25倍」 |
残業時間 | 法定時間外や法定休日に働いた時間 |
固定給部分と歩合部分では、残業代を計算するために、以下の2つの違いがあります。
- 固定部分は基礎賃金の計算するために「所定労働時間」で割り、歩合部分は「総労働時間」で割る
- 固定給部分と歩合部分では、割増賃金率が異なる
上記の注意点を理解したうえで、残業時間を計算しましょう。
では、実際に以下の条件で残業代を計算してみましょう。
【前提条件】
- 法定時間外残業時間:60時間(1ヶ月)
- 所定労働時間:160時間(1ヶ月)
- 総労働時間:220時間(1ヶ月)
- 固定給(基本給+各種手当):30万円(月)
- 歩合給:5万円(月)
- 固定給割増賃金率(法定時間外残業時):1.25倍
- 歩合給割増賃金率(法定時間外残業時):0.25倍
※1円以下四捨五入
30万円(固定給)÷160時間(所定労働時間)=1,875円(固定給部分の基礎賃金)
1,875円(基礎賃金)×1.25(割増賃金率)×60時間(法定時間外残業時)=14万625円(固定給部分の残業代)
5万円(歩合給)÷220時間(所定労働時間)=227円(歩合給部分の基礎賃金)
277円(基礎賃金)×0.25(割増賃金率)×60時間(法定時間外残業時)=4,155円(歩合給部分の残業代)
14万625円(固定給部分の残業代)+4,155円(歩合給部分の残業代)=14万4,780円(残業代)
上記の場合は、1ヶ月に14万4,780円の残業代が発生しています。
固定残業代制が採用されているケース
固定残業代制とは、みなし残業とも呼ばれ、残業時間にかかわらず規定されている一定の残業代を支払う制度で、運送業では多くの会社が採用しています。
例えば、あらかじめ設定した時間である30時間に対して、5万円を支給するなどです。
ちなみに、よく勘違いされがちですが、設定されている時間を超える残業を行った場合には、超過部分の割増賃金を支払う必要があります。
また、以下の条件を満たしていない場合は、固定残業代制が無効と判断されて、残業代を1円も支払っていないと認定される可能性が高いです。
- 労働契約書に記載されていること
- 固定残業代に該当する部分が固定給と明確に区別されていること
- 固定残業代制で定められている残業時間を超えた場合は割増賃金を支払うこと
- 設定された残業時間が45時間を超えないこと
- 固定残業代部分が割増時間外手当額や最低賃金を下回らないこと
では、固定残業代が採用されているケースの残業代はどのように計算すればいいのしょうか?
それは次の計算式で計算できます。
実際に、以下の条件でシミュレーションをしていきましょう。
【前提条件】
- 法定時間外残業時間:60時間(1ヶ月)
- 所定労働時間:160時間(1ヶ月)
- 月給(基本給+各種手当):28万円
- 固定残業代:5万円
- 割増賃金率(法定時間外残業時):1.25倍
※1円以下四捨五入
(28万円(月給)ー5万円(固定残業代))÷160時間(所定労働時間)=1,438円(基礎賃金)
1,438円(基礎賃金)×1.25(割増賃金率)×60時間(法定時間外残業時)=10万7,850円(本来の残業代)
10万7,850円(本来の残業代)ー5万円(固定残業代)=5万7,850円(固定残業時間を超えた際に受け取れる残業代)
上記のシミュレーションでは、固定残業代の「5万円」に加えて「5万7,850円」を残業代として受け取ることができます。
運送業の残業代の請求方法やポイントは?
未払いの残業が発生している場合に残業代を請求するなら、請求方法や請求する際のポイントを理解しておかなければなりません。
理解しておかないと、未払いの残業代の請求がうまくいかずに、本来なら受け取ることができた残業代が少なくなってしまう可能性があります。
ここでは、未払いの残業代を請求する方法やポイントについて解説していくので、未払いの残業代を請求する際の参考にしてください。
未払いの残業代の請求方法
未払いの残業代を請求するときの手順は、以下になります。
- 未払いの残業代を計算する
- 証拠を集める
- 在職している場合は会社と話し合いをする(交渉する余地がある場合)
- 退職後などの話し合いができない場合は内容証明郵便で請求する
- 労働基準監督署に申告する
- 交渉による解決が困難な場合は労働審判を行う
- 労働審判が適してない場合や労働審判でも解決できない場合は労働訴訟を行う
上記のような手順で、未払いの残業代を請求が可能です。
なお、会社との話し合いで、解決することができない場合には、手続きが複雑になり、自分で請求するのに、手間と時間がかかるうえに、精神的な負担もかかります。
そのため、弁護士や労働組合などに早めに相談しましょう。
適切なアドバイスをしてくれるうえに、代理して残業代の請求を行ってくれるので、手間や時間も削減できます。
未払いの残業代を請求する際のポイント
未払いの残業代を請求する際は、以下の2つのポイントを押さえておく必要があります。
- 有効な証拠を集める
- 残業代請求には時効がある
それぞれについて解説していくので、内容を確認をして未払いの残業代を請求する際の参考にしてください。
有効な証拠を集める
未払いの残業代を請求するためには、証拠が必要になります。
当然ですが、証拠は請求する側が集める物です。
例えば、以下のようなものが証拠になります。
- タイムカード
- タコグラフ
- パソコンのログインログオフ記録
- 業務上の送信メール
- 上司からの指示メール
- 運航・業務日報
- 車載カメラの記録
- 高速道路のETCカードの記録
- 手帳での勤務時間記録
- 給料明細書
- 雇用契約書
- 就業規則の写し
上記のようなものが証拠になりますが、会社に問い合わせないと集めることができないものもあるので、可能なものをできる限り集めるようにしましょう。
証拠はあればあるほど、スムーズに未払いの残業代請求を行うことができます。
弁護士や労働基準監督署、労働組合に相談する際も、証拠があるほうがスムーズに対応してくれるので、事前に集めておくのがおすすめです。
なお、雇用契約書は非常に重要なので、控えを持っていない場合は、控えをもらって手元に保存しておくようにしてください。
残業代請求には時効がある
残業代請求には、いくらでも過去にさかのぼって請求できるわけではありません。
残業代請求権には時効が設定されています。
具体的には、3年より前の残業代については、会社側に請求に応じる義務はありません。
このように、未払いの残業の請求には時効があるため、未払いの残業が発生していることに気づいたら、すぐに残業代請求をするようにしてください。
ちなみに、以前は「2年」でしたが、労働基準法第115条が改正され、2022年4月以降から「3年」に変更されています。
まとめ
この記事では、運送業の労働時間や残業時間について解説してきました。
解説してきた内容は以下です。
- 運送業の法定労働時間は1ヶ月の労働時間の上限は「293時間」で、1日の拘束時間は「13時間」など詳細決められている
- 運送業の残業代を計算方法は固定給・歩合給・固定残業制代で異なる
- 未払いの残業代を請求する場合は証拠を可能なかぎり集めておく
運送業で働いており、未払い残業代に悩んでいる方はこの記事を参考にしてください。
なお、残業代の未払いについては、こちらでも事例なども紹介しながら詳しく解説しています。
こちらも参考にご覧ください。
また、いますぐ未払い残業代の請求ができるか確認したい、請求を行いたい方はねこの手ユニオンへご相談ください。
相談料や着手金など一切かからない為安心してご相談頂けます。
※実際に請求し、無事解決金が支払われた場合のみ義援金をいただいております。